「本屋での話」について

いまから35~6年前、私は八丁堀の書店で一年半ほどアルバイトをしていて、退職間際の昭和62(1987)年1月に、書店の奥さんと2時間近く話し込みました。事の発端は、当時売れていた長谷川慶太郎さんの「日本はこう変わる」を読んだ私が、「何が何だかサッパリ分からない」「なんで、こんなものが売れているんだろう」というような素朴な疑問を書店の奥さんに投げかけたことにあります。
この、私と奥さんの話の内容をまとめた『この学校の職員室に大勢いる すこぶる殺風景な女たち』を、日本文学学校及び文芸同人土曜の会に合評先品として提出したことがありますが、完成できずにいまに至っています。いかんせん30年以上前のことで、断片的にしか思い出す事ができません。それならば、その断片ごとにブログで公開すればいいではないかと思うようになりました。
カテゴリー「思い出す事など」は作品覚書・備忘録とも言えるもので、そのうち「本屋での話」を今回記事投稿いたしました。まだまだ断片投稿は続きますし、いずれそれらをつなぎ合わせることになるかもしれません。
税金は地獄の果てまで追いかけてくる
学校に超豪華体育館ができたこと―寄付金と税金の違い
「ある時、学校でこういうことがあった。
♪蔦のからまるチャペルで、祈りを捧げた日~
という歌の文句にありそうな年代物の木造の体育館で事故が起きた。体育の授業中に床が抜けて、生徒の誰かが片脚を床下に突っ込んだのだ。私は現場に居合わせたわけではないけれど、幅10センチ、長さ3~40ほどの穴から察すると、切り傷・擦り傷・棘もいっぱい刺さっただろうなと思える事故なわけ。こういうことって本当にあって老朽化したビルか危険だから、それを取り壊して建て直すまでは分かるんだけど、その後に100階建てのビルを建てるというのがチョットね。あのね、実は学校でこういうことがあったのよ。残念ながらプールはないが、一階の第一アリーナには小さな舞台がついていて、学芸会にも利用でき、二階の視聴覚室では性教育ビデオが観れ、バレーボールコートが三面取れる三階の第一アリーナは、天井サーブが打てるほど天井が高いという超豪華体育館ならある」
「なにそれ?」
「床が抜けた事故の後に、こういう体育館ができちゃって、何の説明もないまま、『卒業生の皆さん、PTAの皆さん、一口○万円の寄付しろ』って学校が言って来たもんだから、学校で一悶着あったのよ。で、これが寄付金なら、『私、知らないわ』と知らんぷりすることもできるけど、税金はそうはいかない。税金は、地獄の果てまで追いかけてくるからね」
地獄の果てとは?(地主の婆さんの話より)
「地獄の果てって、どういうことよ」
「例えば最後の一人が卒業したら廃校になるような過疎地に、超豪華設備の学校を建てたとしよう。そんな過疎地にだって住民はいる。最後の一人の親とか、去年の卒業生の親とかね。そんな超豪華設備の学校を建てるのに、どれほど費用がかかるか知らないけど、その費用は住民が払うことになる。つまり税金で、これは寄付金と違って、知らんぷりできない」
「知らんぷりできないのは分かるけど、地獄の果てって、どういうことよ」
「この間、テレビを観ていたら、高額納税者番付だか所得者番付だかで日本一の人が記者会見でこういうことを言っていた。なんだかその人、地方のほうに山林だか何かを持っている人でさ、
『競輪の中野浩一さんやタモリさんのように、自分の力で稼いだというのならまだしも、御先祖様が遺した地面に高額の相続税がかかってきて、それを払うお金がないから、御先祖様が遺した地面を売ったんですよ。こんなところに引っ張り出されて、何か言えと言われても声も出ない』
って言っていたのよ。それに、こういうこともあった。大塚の家は薬屋でお店だから、誰でも自由に入って来れるでしょ。ある時、地主の婆さんが入ってきて、母に向かって、
『皆さんは、うちが地主だと思ってカネがると思っているんでしょう。カネがあるのと資産があるのとは違うんですよ。資産には税金がかかって来るんですよ!』
って、ひとしきりギャーギャー騒いで、最後に申し訳に、200円くらいの歯磨きチューブか何か買って帰って行ったんだって。で、母と私で、あれは一体何なんだろうという話になって、あの地主の婆さん、爺さんに死なれたばかりで、相続税に苦しめられてるんだってことになった。高額所得者番付の人は、相続税を払うために、御先祖様が遺した山林だかを売ってお金を作ったけど、地主の婆さんのほうは、地面の上に人が暮らしているでしょ。これが梃子でも動かない。借地権って強いから、売ってお金を作るなんて簡単にはできない。じゃあどうするかというと、銀行からお金を借りてビルを建てて、人に貸して、月々の家賃で銀行に返済していくのと同じで、地面を担保に銀行からお金を借りて相続税を払って、月々の地代で銀行に返済していくことになるんだろうと思うのよ。で、とにかく担保の値打ちのない不動産に巨額の融資をしているくらいだから、いまならば、地面があれば銀行もお金を貸すだろう。でもコケたら貸さないんじゃないかな。あとね前の会社で、私は会計係だったのよ。給料だとか賞与だとか、資金繰りが難しい時に、社長は土地を担保に銀行からお金を借りてやりくりしていた。あの会社、私が入った当初は木造二階建だったのを、途中で鉄筋四階建てに建て替えたのよ。その費用は、やはり地面を担保に銀行から借りたわけ。でもこれで担保枠いっぱい使っちゃったんで、これ以上地面を担保にお金を借りることはできなくなった。それでも給料やら賞与やらの資金繰りが難しい時があって、私は社長がどうするのか様子を見ていたら、こんどは生命保険を担保にお金を借りていた。生命保険を担保にお金を借りて返済出来なかったら、どうなるんだろう」
「……」
「これってひょっとすると、早く死んでくれってことになるんじゃないかな」
「そう、なるわよね」
―続く―




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